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【完全版】 カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?わかりやすく解説

カスタマーエクスペリエンス
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【完全版】 カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?わかりやすく解説

カスタマーエクスペリエンス(CX)は、企業や顧客にどのように関わってくるのでしょうか。CXの定義やCXのメリット、成功事例や戦略などをわかりやすく紹介します。

カスタマーエクスペリエンス(CX)とは


カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)とは「ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験」のことです。しばしばCXと略され、「顧客体験」や「顧客エクスペリエンス」とも言われています。

今日のデジタル社会においては、デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)に気を配る企業も増えてきました(第4章)。またCXはB2Cだけでなく、B2Bでも注目されるようになってきています(第5章)。

カスタマーエクスペリエンスの質を高めることを「CX向上」といいますが、B2C企業はCXを向上させることで顧客離れの防止リピーター客の獲得ブランドイメージの向上既存顧客による宣伝効果などのメリットを得ることができます(第6章)。

本記事では、上記に加えCX向上のための戦略(第7章)や、実際にCXが改善した事例(第8章)も紹介しています。

 

カスタマーエクスペリエンスの特徴(第3章):

カスタマーエクスペリエンスは、顧客が商品を購入する際の体験にとどまらず、購入前の段階から購入後のサポートまでを通した、購買プロセスをとりまく顧客視点からの体験全体を対象としています。


また、カスタマーエクスペリエンスは、その商品やサービス自体が直接的に顧客に提供する体験だけではなく、その購入により顧客に非直接的にもたらされた体験も含みます。例えば、商品を提供する企業の雰囲気が良かったり、商品購入後に丁寧なサポートがあることで、顧客が得る満足感もカスタマーエクスペリエンスの一部です。

カスタマーエクスペリエンスの注意点:

カスタマーエクスペリエンスを捉える際に気をつけなければならないのは、カスタマーエクスペリエンスを企業視点で考えないようにすることです。

「カスタマーエクスペリエンス」はあくまでも顧客視点での体験のことを指しており、企業側が顧客に提供したエクスペリエンスを、そのままカスタマーエクスペリエンスと捉えるのは危険です[1]。

ユーザーエクスペリエンス(UX)との違い


カスタマーエクスペリエンスとよく似た言葉に、ユーザーエクスペリエンス(UX)という言葉がありますが、この2つの言葉は混同されがちです。

UXが個々の体験のことを指すのに対し、CXは企業の商品・サービスの利用者(ユーザー)が、それらの利用を通じて受けた体験全体のことを指しています[2]。

CXとUXの関係を一言で表すとすると、CXはUXを包含したものと言うことができます。例えば、とある商品を購入した際、UXでは『商品購入前のエクスペリエンス』『購入時のエクスペリエンス』『購入後のエクスペリエンス』などと複数のエクスペリエンスが生じる一方、CXでは『購買プロセス全体でのエクスペリエンス』と1つのエクスペリエンスが生じます。

そのため、CXは、UXが積み重なったものと考えると分かりやすいでしょう。

商品購入時における、UXとCXの違いの解説

 

カスタマーエクスペリエンスの2つの特徴


① 長期性

カスタマーエクスペリエンスの特徴の一つ目は、長期性です。例として、カメラを購入するために同じ家電量販店を訪れた2人のエクスペリエンスを比べてみます。

AさんとBさんは、それぞれが「より良い写真を撮りたい」という同じ動機をもち、新しいカメラを購入することにしました。

その結果、2人が経験したエクスペリエンスは以下のようになりました(2人が買うカメラは同スペック・同価格ですが、AさんはブランドXから、Bさんは売場が少し離れたブランドZから購入したとします)。

CXの長期性

AさんとBさんは、同じニーズをもって同じ行動をしたにも関わらず、結果的に受けたカスタマーエクスペリエンスには大きな違いが出てきてしまいました。

優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するには、商品としての性能が高いだけでは不十分です。そのため、企業はただ良い製品やサービスの提供を目指すだけでなく、購入前から購入後のサービスまでのプロセス全体のカスタマージャーニーに気を配る必要があります。

B2Bビジネスにおいては、B2Cビジネスに比べて、カスタマージャーニーにおける購入前のステージが重要になっています。

B2Bにおける購買決定者の82%は、購入前にベンダーが提供するコンテンツ(ホワイトペーパーや事例集など)を最低5つは閲覧し[3] 、77%は詳細なROI分析をし、また52%は購買に関わるグループメンバーを増員するなどして、より慎重に購買プロセスを進めています[4]。

また、近年のB2Bにおける購買サイクルは長期化の傾向が見られています。購買決定者のうち、58%は前年よりプロセスが長くなったと回答し、短くなったと回答した人の割合はわずか10%でした[4]。

そのため、ベンダーやサービス提供者は、CXが長期戦になるということをしっかり認識した上で、取り組む必要があるでしょう。

 

② 非物質的価値

カスタマーエクスペリエンスのもう1つの特徴として、「非物質的価値」の重要性を認識しておく必要があります。

カスタマーエクスペリエンスにおける「物質的価値」とは、商品の質や価格が示すような価値のことで、一般的に、その商品の物質的価値が高いほど、顧客が得るカスタマーエクスペリエンスは向上すると考えられています。

その一方で、非物質的価値とは、商品自体の物質的価値を超えた感覚的な価値、あるいは心理的な価値のことを意味しています。こちらも例として、以下の二つのカフェを比べてみましょう。(コーヒーの品質と値段に違いはないとします。)

CXにおける非物質的価値の重要性

上記の例のように、非物質的価値には感覚的なものが含まれ、カスタマーエクスペリエンスに大きな影響を与えます。非物質的価値が低ければ、高い物質的価値を提供したとしても、総合的なカスタマーエクスペリエンスがネガティブになってしまうこともあります。

それでは、非物質的価値にはどのようなものがあるのでしょうか。

その中の一つに、カフェを訪れた時に感じる居心地の良さや快適さに代表されるような、感覚的価値があります。感覚的価値を養うことができれば、顧客にとって購入した商品やサービスの知覚価値が向上し、それが属するブランドや企業に好意的な印象を抱くようになります。

また、非物質的価値の他の例として、心理的価値があります。顧客が特定の商品やサービスに好意的な感情を持つ延長線上で、それらを利用すること自体に価値を見出したり、ブランドアイデンティティに自身のアイデンティティを重ね合わせるようにその商品やサービスにアイデンティティを感じるようになれば、顧客はその商品やサービスに深層心理的に価値を感じていると言えます。

非物質的価値の分類

非物質的価値特徴を理解した上で、しっかりとした顧客対応を心がけることで、優れたCXを提供し、顧客満足度を向上させることができるでしょう。

 

デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)とは


現代では、デジタル技術が進化したことで、購買プロセスが大きく変化し、B2B、B2Cに関わらず、誰もがあらゆるタッチポイントで一貫したサービスを求めるようになりました。

現に、B2Bの購買決定者のうち80%は、B2Cと同様のカスタマーエクスペリエンスを受けることを期待しています[5]。近年では外出自粛の風潮も強まり、あらゆる体験がオンライン化され、オンライン環境でのアクテビティは以前と比べてより一般的になってきました。

このような背景から、企業はオンラインでのエクスペリエンス、すなわちデジタルカスタマーエクスペリエンスにも気を配る必要がでてきました。上記ではオフラインにおけるCXの具体例を提示しましたが、ここではオンラインにおけるCXの例について説明します。

デジタルカスタマーエクスペリエンス

オフラインでは実店舗の環境や店員の対応がカスタマーエクスペリエンスを形作りますが、オンラインではあらゆるデジタルタッチポイントにおける顧客への対応がカスタマーエクスペリエンスを構成しています。

例えば、購入前の顧客との接点として考えられるのは、オンライン広告やメルマガ配信、インフルエンサーによる投稿などです。購入時にはウェブサイトの操作のしやすさや、サイズ選択の際のスムーズな誘導がCXの質を高めることになり、配達の際も顧客が商品の位置を把握できることが大きな安心感につながります。

万が一期待通りの商品を受け取ることができなかった場合でも、丁寧なサポート体制が整っていれば、顧客からの評価挽回のチャンスがあります。そして購入後、顧客が受けたエクスペリエンスはデジタル環境上で共有され、他の顧客の意思決定に影響を与えることになります。

また、近年オンラインカスタマーエクスペリエンスを向上するものとして、新たに注目されているのは、デジタルセルフサービスです。

デジタルセルフサービスは、ユーザーがデジタルチャネルを通じて問題を独自に解決できるようにするソリューションのことを指します。デジタルセルフサービスを導入すれば、顧客はトラブル時でもサポートスタッフに連絡することなく、簡単に操作できるインターフェイスを通して情報を提供できます。

デジタルセルフサービスを導入することで、顧客は迅速かつ簡便なサポートを受けることができるため、良質なカスタマーエクスペリエンスの提供を実現することができます。

B2Bにおけるカスタマーエクスペリエンスとは


これまでB2CにおけるCXを説明してきましたが、B2BにおいてもCXは非常に重要です。現に86%のB2B企業のCMO(最高マーケティング責任者)が、CXは経営において重要だと考えており[6]、B2B企業の71%が、自社の顧客企業がB2C並みの素早い応対やチャネル横断での一貫した体験などを求めていると回答しています[7]。

セールスフォースのレポートによると、ビジネスにおける購買担当者の82%が消費者レベルのCXを望んでおり、57%がより良いCXを求めてベンダーを切り替えたことが明らかになっています[8]。

B2B企業においても企業顧客に対してサポートの充実を図ることで、顧客との間に絆を築き、ビジネスの質を高めることができるのです。

しかしB2BのCXは、B2CのCXと全く同じではありません。ガートナー社のアンケートにおいて「取引先の企業が特に力を入れていたCXは何か」を聞いたところ、コミュニケーション面での対応やアフターセールス、サービスデスクなどのサポート、ニーズの聞き取りがB2Cと比較してB2Bで特に高い値を出したことが明らかになりました[9]。

またB2Cでは、多くが個人の判断で短期的な判断プロセスを介して購買意思決定がなされますが、B2Bでは企業全体のステークホルダーによる議論を通して、さまざまな条件が考慮された上で総合的に意思決定が行われます。

B2Cでの顧客との関係性は短期的なものも多いものの、B2Bであると継続的な関係が築かれるケースも多いです。

CX担当者は、このようにB2Bにおける顧客がB2Cにおける顧客と全く同じようには行動しないという点を意識し、B2Cにおいて効果のある施策がB2Bにおいても有効なのかを慎重に判断する必要があります。

 

カスタマーエクスペリエンス(CX)向上がもたらすメリット


優れたカスタマーエクスペリエンスを提供することで、企業は競合優位性を得て、競合他社と差別化を図ることができると言われています。

大手コンサルティング企業のPwCの調査によると、消費者の86%は、より高い価格でも優れたカスタマーエクスペリエンスを提供する企業から商品を購入します[10]。優れたCXを提供できれば、売上向上を期待できるのです[11]。年商10億ドル(約1,090億円)以上の企業であれば、カスタマーエクスペリエンスの向上に適切な投資をすることで、3年以内に700万ドル(約7億円)の増収が見込まれます[12]。

また、優れたCXを提供している企業は、主に以下の4つのメリットを期待できます。

 

1. 顧客離れの防止

ある商品の購入において、顧客が満足するエクスペリエンスを受けなければ、競合他社に乗り換えます。フォーラム・コーポレーションの調査では、70%の顧客は企業から満足なサービスを受けられなかった時にブランドから離反すると答えています[13]。

PwCの調査からは、17%の顧客がたった一回よくない体験をしただけでブランドから離反することが分かっています[10]。顧客を1人失うことは、企業はその顧客の生涯にわたって期待できる購買活動、つまり顧客の生涯価値(CLV)を失ったことになるため、企業にとって大きな打撃になります。

新規顧客の獲得には、既存顧客の5倍のコストがかかるという1:5の法則に見ることができるように、離反顧客分の新規顧客の獲得は簡単にできることではありません[14]。

そのため、離反顧客を生み出さないためにも、顧客が満足するサービスを提供していくことには大きな価値があます。また、一度離反した顧客を取り戻すことも同様に簡単ではないため、顧客の離反は、企業にとって大きなダメージになります。

顧客が離反したということは、その顧客が新しいブランドに乗り換えているということ、つまり競合他社に予断を許してしまったことにもなっています。

 

2.リピーター客の獲得

ある商品・サービスの利用によって顧客が満足感を得た場合、同様の体験を求めて同一商品・サービスを利用する顧客(=リピーター)が出てきます。ウ

ォーターマーク・コンサルティング会社の調査によると、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供している企業は、良くないカスタマーエクスペリエンスを提供する企業の3倍ものリピーターを獲得しています[15]。

また、CXのリーダー企業の顧客はCXに遅れている企業の顧客と比べ、リピーター顧客を得る確率が7倍高く、またアップセル(既存顧客がいつも購入している商品やサービスを、より上位の高価なものに移行してもらう営業活動)に成功する確率も8倍以上高いことが明らかになっています[16]。

リピーター客は、新規顧客向けの積極的な販促を行わなくても、商品・サービスを購入してくれ、さらにポジティブな口コミを無料で広めてくれるため、企業の長期的な売上の維持に好影響を与えます。高い顧客価値を提供し、顧客ロイヤルティを向上させて多くのリピーター客を得ることで、企業は効率よく売上を上げることができるようになります。

 

3. ブランドイメージの向上

顧客がある商品・サービスの利用によって良い体験を受けることができれば、顧客はそのブランドに好感を抱き、信頼を置くようになります。

ブランドイメージが向上すれば、顧客ははじめに購入した商品だけでなく、それと同じブランドのものの購入を積極的に行うようになるため、ブランド力を高めることは、自社商品の価値を高める作用を持ち、競合他社との差別化にもつながります。

 

4. 既存顧客による宣伝効果

優れたカスタマーエクスペリエンスを提供し続けることができれば、その体験を受けた顧客のロイヤリティを向上させることができます。そして、顧客ロイヤリティが高い顧客は、好意的な情報を周りに発信するようになります[17]。

マーケターの間で「最高の広告は満足した顧客である」と囁かれているように、ポジティブな口コミは強いマーケティング効果を発揮します。最近では、多くの口コミが知り合い同士だけでなく、SNSなどのデジタルコミュニケーション上で大々的に為されるようになってきました。

従来、企業はマスメディアを通して一方的に広告を発信していましたが、パーソナルデバイスが発達した現在、顧客という存在がいつでもどこでも商品やサービスについての情報を発信をすることができるようになったのです。

顧客がネット上などで、企業の商品・サービスについてのポジティブな口コミを広げれば、企業がコストをかけずとも宣伝することができるので、企業にとってこの変化は大きなビジネスチャンスであるとも言えるでしょう[18]。

口コミの影響力

しかし消費者にとって、顧客の素朴な意見が中立性をもった意見として企業が発信する情報よりも意思決定において大きな影響を持ちうるということを考えると、企業は顧客を「消費者」としてだけではなく「情報発信者」として捉え直し、場合によっては顧客に商品やサービスについてのネガティブな情報を発信されることも十分に意識しなければなりません[19]。

特に、大きな影響力を持った個人が商品やサービスについてのネガティブな情報を発信した場合、企業にかかる負担は大きくなります。この時代、既存顧客がポジティブな情報を発信したくなるような、質の良いカスタマーエクスペリエンスを提供できるよう、企業は一層の注意を払う必要があります。

カスタマーエクスペリエンス(CX)向上戦略


優れたCXを提供するためには、顧客を理解し、顧客中心にサービス提供を行う必要があります。ただ、顧客を深く理解するのも、顧客に合ったサービスを提供するのも、決して簡単ではありません。顧客にとって価値のあるCX提供を実現するために、以下のことを意識してCX向上戦略を立てましょう。

 

手順① ペルソナ/カスタマージャーニーマップの作成

優れたカスタマーエクスペリエンスをデザインする際、まず初めに最も重要なのは顧客の視点に立って考えることですが、企業内の人間が顧客視点に立つことは簡単ではありません。顧客視点からの思考を支えるのは、ペルソナとカスタマージャーニーマップの作成です。

ペルソナ作成

ペルソナ作成は、ターゲットオーディエンスを知るために重要なプロセスです。ペルソナとは、企業が提供する商品やサービスの典型的な顧客像のことであり、新規顧客獲得やターゲットオーディエンスに合わせたエクスペリエンス提供の基盤になります。

ペルソナを作成する際には、企業が想定しているターゲットに囚われず、既存の顧客情報や市場調査の結果などの客観的な情報を参考にし、実際の顧客像を捉えるよう心がけましょう。この時、ビジネスモデル(B2BやB2C)にもよりますが、ペルソナ情報は年齢や性別などの基本情報だけでなく、年収や家族構成、社会的・文化的習慣などをできるだけ多く収集・分析して、ペルソナの具体的なライフスタイルを想像できるようにすると、顧客が重要視するタッチポイントの想定がしやすくなるなどメリットを期待できます。

また通常、実際の顧客の姿は1つにカテゴライズできないため、さまざまなタイプのペルソナを作成することで実際の顧客の姿が捉えやすくなるでしょう。

ペルソナ作成の5ステップ:

  1. 特定:ユーザーセグメントと他のセグメントを分ける、最も重要な属性を特定
  2. 集計:決めたセグメントを構成する人物像の最小数を決定
  3. 描写:ターゲットの肩書き、目標、課題、人口動態などの様々なデータをまとめ、ペルソナをなるべくリアルに描写
  4. 検証:作成したペルソナを事業目標と比較
  5. 活用:完成したペルソナを社内に広め、あらゆる戦略立案の際に活用

カスタマージャーニーマップ作成

カスタマージャーニーマップの作成は、ペルソナの行動を理解するための作業です。企業はカスタマージャーニーマップを通して、顧客と企業とのはじめのタッチポイントから、購入の瞬間、そして購入後に至るまでの経路を理解することができます。

カスタマージャーニーマップ イメージ図

カスタマージャーニーマップ

 

手順② 戦略策定/現状見直し

カスタマージャーニーマップまで一度完成すれば、ペルソナやジャーニーマップから得られる情報を基にデジタル戦略を定義し、改善点を特定して商品/サービスをアップデートするフェーズに入ります。

ペルソナやジャーニーマップを用いて戦略策定や現状見直しを行うことで初めて、カスタマージャーニーマップまでを作成した真価が発揮されます。社内全体でペルソナやマップを共有した上で戦略策定を行うことで、社員が同じ方向を向くようになってまとまりが生まれるだけでなく、効率化も期待することができます。

この段階では、ジャーニーマップを見返してマイクロモーメント(顧客が何かに対する潜在的ニーズを持っている瞬間)を特定し、新しい事業戦略を練る、といった取り組みができます。

また、作成したペルソナやカスタマージャーニーマップと企業目標にズレがないかを見返したり、既に提供済みのエクスペリエンスを見直して反応が良いキャンペーンへの比重を高めるなど、微調整を試みてもいいでしょう。

CX戦略立案の際の2つのポイント

上記の手順を踏んでCX戦略を構築する際、現代のデジタル社会において顧客が企業に求めていることに注目する必要があります。

現代の顧客は、どのチャネルからアクセスしても一貫性が保たれていて、コンテンツがパーソナライズされていて、簡単に操作できるエクスペリエンスを求めているため、顧客が一般的にたどるジャーニーの各ステップにおいて、これらを意識した最適なデジタルエクスペリエンスを用意することがCX向上には非常に重要です。

ここでは、①一貫性と②パーソナライゼーションに着目して説明します。

1. 一貫性

顧客があらゆるタッチポイントを通して情報を受け取るようになった現在、一貫性が保持できているかという点には気をつけなければなりません。

情報に一貫性が保たれていれば、顧客は企業からのメッセージを捉えやすくなるため、顧客とのコミュニケーションが円滑になり、CXの向上が期待できます。

しかし企業側がもし、タッチポイントごとに一貫したイメージを訴求できていなければ、顧客は上手くブランドを捉えることができないため、企業は顧客にインパクトのあるメッセージを伝達することができません。

あらゆるチャネルで一貫性のあるコンテンツを提供するには、まずは情報を提供する企業側のシステムが整理されている必要があります。バックエンドシステムや顧客データを統合し、社内リソースの一元管理が行われて初めて、従業員が社内外のシステムを効率的に管理できるようになり、顧客へのシームレスなエクスペリエンスの提供が可能になります。

2. パーソナライゼーション

現代の顧客は各自の嗜好に基づいたコンテンツの提供を期待しているため、顧客の属性・行動履歴などのデータの分析結果から各ユーザーの嗜好を予測し、各々のユーザーに合ったコンテンツ提供を行うように意識しなければなりません。

当然顧客は自分が関心のないものよりも、関心のあるものを目にした時の方が内容に興味を示し、その商品やサービスに好感を抱くようになるため、より最適なパーソナライゼーションを行った企業が、より質の高いCXの提供を実現することができます。

顧客の期待通りにカスタマイズされたエクスペリエンスを提供できなければ、顧客の行動に悪影響が出ることは、データからも示されています[20]。

  • 顧客の74%がパーソナライズされていないと不満に思う
  • 消費者の80%がパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するブランドから購入する
  • 消費者の66%はパーソナライズされていないコンテンツに遭遇すると購入を思いとどまる

最適なパーソナライゼーションを行うためには、顧客の属性・行動履歴などのリアルタイムでのデータを収集し、整理し、分析し、反映させる必要があります。そのため、データの収集源を確保し、社内でのデータ管理体制を整えることがパーソナライゼーションを実現するための基盤となります。

 

手順③ 定期的なPDCA

手順①、②を通して提供するCXを高い水準に保ち続けるためには、PDCAサイクル(Plan 計画, Do 実行, Check 評価, Action 改善)に基づいて定期的に現状のアップデートを行うことが大切です。ここでは、各フェーズにおける企業のtodoについて紹介します。

1. 明確な目標設定[Plan]

カスタマーエクスペリエンスを向上させる上で最も重要なことは、提供したいCX像について考えた上で、明確な目標を設定することです。

「明確な」目標を設定する上では、5W2Hを意識することが重要です。目標が定まれば社内で広く共有し、それを基に戦略策定を行うことで、様々なタッチポイントを通じて企業全体で一貫したサービスを提供することができます。(一貫性の重要性は後述しています。)

5W2H

目標設定の手がかりとして役立つのは、手順①のペルソナやカスタマージャーニーマップの作成や、それらの定期的なアップデートです。そのためCXに問題があると感じた場合は、CX戦略の基盤となっているペルソナやカスタマージャーニーマップに立ち戻って考えることが有効な場合があります。

2. 戦略の実行[Do]

この段階では、[Plan]で目標達成に向けて立てた戦略を実行に移します。この時、一度に戦略を実行に移すことを最重要視せずに、企業にとって実行可能な範囲を知るという意味も込めて、無理のない範囲で施策を進めていきましょう。

計画通りに進まなくても、そのこと自体がデータとなります。実行段階においては、次の[Check]段階で行う戦略の評価に備えて、進捗度や結果を数値的に記録しましょう。

3. フィードバック収集と評価[Check]

この段階では、[Do]における評価を行います。ここでは、[Do]で収集したデータを見直すことで実際に戦略プランが達成できたかを確認するに加えて、蓄積された顧客行動データや顧客フィードバックの分析により、実行した戦略の効果を正確に評価します。

効果があったアプローチは継続、なかったものは改善することによって、企業がとるアプローチは最適化されていきます。

4. アプローチ方法の改善[Action]

この段階では、[Check]段階での評価を基に、改善点を洗い出し、次に取るべき方向性を探ります。方向性を決定した上で、初めの[Plan]段階に戻り、もう一度プランの設定を行い、以降[Do][Check][Action]を繰り返していきます。この繰り返しにより、CX向上が期待できます。

 

 

CXの効果を左右する鍵 - オペレーション

上記の手順を踏む上で、真にCXの向上を達成するためには社内オペレーションが整える必要があります。

運用システムがシンプルで合理的なCXをサポートできていなければ、戦略が上手く練られていたり、快適なナビゲーションや美しいUXデザインが揃っていても、顧客への価値提供に失敗し、離反が起こります。

それでは、オペレーション体制を整えるにはどうすればいいのでしょうか。ここには、①顧客/企業のシステム統合、②データ活用 の2ステップがあります。

① 顧客側のシステム統合と社内のシステム改善

i - 顧客側のシステム統合

顧客に商品/サービスを快適に利用してもらうには、システム連携とテックスタックの統一が必要です。

システムが統合されていないと、ユーザビリティやデザインがタッチポイント毎に異なるため情報に一貫性がなくなったり、管理体制が複雑化することによりユーザーがシステムの利用にストレスを覚えるようになります。

この問題を解決するのが、全システムの単一プラットフォームへの移行です。

世界中で住宅・生命・自動車の保険を提供するExcalibur Insurance社では、全システムの単一プラットフォームへの移行を目指して、Liferay DXPを用いて異なるアプリケーションとシステムを全て統合しました。

このことにより、ITチームは社内システム・ツールをより簡単に管理し、一貫したエクスペリエンスを提供するための基盤を用意することができるようになりました。また、単一プラットフォームを用いたソリューションの作成も可能になり、将来的な活用も視野に入ってきました。

これからも同社は、様々なソリューション間の統合や、あらゆるタッチポイントでの一貫したエクスペリエンスの提供を通じ、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供を行っていく予定です。

このように、システム連携とテックスタックの統一を実現するために有効な方法の一つは、カスタマーポータルの作成です。カスタマーポータルを通して、顧客は1つのプラットフォームからストレスなく情報収集できるようになるので、CXを向上させることができます。

 
ii - 社内のシステム改善

顧客に良いサービスを提供するためには、まず社内システムの基盤がしっかりしている必要があります。基盤を安定させるためには、積極的にテクノロジーを活用し、社内における業務効率化を推進することが大切です。

具体的には、セルフサービスを活用した単純作業の自動化や、サービスチャネルの統合による効率的なシステム管理、社内リソースの一元管理などがあります。これらを実現することで、業務効率が向上し、顧客戦略の構築に集中できる環境が生まれます。

② データの活用

カスタマーポータルやその他システムが連携されれば、これまでサイロ化されていたデータを一元管理できるようになるため、従業員の負担が減るだけでなく、データの効果的活用が可能になります。

データは、手順①で紹介したペルソナやカスタマージャーニーマップの見直しや、戦略立案時の2つのポイントで紹介したパーソナライゼーションの作成に役立ちます。アップデートされたデータを基にさらに細かくペルソナを割り出し、戦略を改訂していくことで、その時々に最適なCXを提供し続けることができます。

 

以上が、CX推進戦略です。これまでの内容を図にまとめると、以下のようになります。

CX戦略

 

カスタマーエクスペリエンス(CX)向上事例


B2B、B2Cにおいても、顧客が満足するCXを提供するには、上記で記載した戦略や丁寧・親切な顧客対応はもちろんですが、高品質の公開ウェブサイトの構築や、カスタマーポータルなどのポータルソリューション導入もひとつの案となるでしょう。

しかしながら、評判の良いソフトウェアを選べばCX向上を期待できる、といったことはなく、企業独自の商品・サービス、日々変化する顧客の要望に対応できるソフトウェアが必要となります。ここでは、ソフトウェア導入によってCXが向上した2社の成功事例を紹介します。

事例① 大手保険企業のアリアンツ社

オーストラリアで300万人以上の保険加入者を抱えるアリアンツ社は、ポータルサイトをリニューアルし、データベースなどの既存システムを統合しました。ユーザーアカウントの作成から、保険プランの検索や注文、パーソナライズされた通知の受信など、シームレスなエクスペリエンスを提供できる新ポータルサイトを構築した結果、顧客満足度の大幅向上に成功しました。

アリアンツ社ポータルイメージ

このように、デジタルセルフサービスを採用してカスタマーエクスペリエンスを向上させるという事例は年々増大しています。デジタルセルフサービスについて、詳しくは【2021年最新版】デジタルセルフサービスとはをご覧ください。

 

事例② 米国政府機関が運営する Grant.gov

Grants.gov(連邦政府補助金の申請や検索等に用いられるウェブサイト)では、17のレガシーシステムを抱えており、ユーザーに対して一貫性のないエクスペリエンスしか提供できていなかったものの、統合プラットフォームを構築した結果、週400万人以上のサイト訪問者に対し、シームレスなエクスペリエンスの提供に成功したほか、大幅なコスト削減も実現できました。

Grants.gov実際の画面

いずれの事例も、ただ単にソフトウェアを導入しただけでなく、顧客視点で顧客のニーズを深く分析したことが鍵となりました。そのため、優れたCXを提供するための基盤として、最新鋭のポータルソリューション導入は、非常に有効な手段の1つであると言えるでしょう。

 

さいごに


カスタマーエクスペリエンス(CX)とは「ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験」のことで、顧客が商品を購入する際のエクスペリエンスにとどまらず、購入前の段階から購入後のサポートまでを通した、購買プロセスをとりまくエクスペリエンス全体を対象としています。

優れたCXの提供は、競合優位性を得る上で、B2CだけでなくB2Bにおいても非常に重要な要素となっています。

また、優れたCXを提供できれば、企業は ① 顧客離れの防止、② リピーター客の獲得、③ ブランドイメージの向上、④ 既存顧客による宣伝効果 のメリットを得ることができますが、逆にネガティブなCXを提供してしまった場合、これらのメリットを得ることができないばかりか、ブランドイメージの悪化や顧客離れに繋がってしまいます。

そのため、カスタマーエクスペリエンスの意味や重要性を理解し、また顧客視点で「優れたカスタマーエクスペリエンスとは?」ということを考え、戦略立案フェーズに移ることが、優れたCXを提供する上で必要な第一ステップとなるでしょう。

参照文献


[1] Super Office, “7 Ways to Create a Great Customer Experience Strategy
[2] Nielsen Norman Group, "User Experience vs. Customer Experience: What's the Difference?"
[3] Forrester, “Myth Busting 101: Insights Into The B2B Buyer Journey
[4] Demand Gen Report, 2019, “Data: The Key Differentiator In B2B Marketing
[5] Accenture, “Put Your Trust in Hyper-relevance
[6] Lumoa, "5 Trends in B2B Customer Experience Management"
[7] Accenture, “Accenture customer experience and Accenture Strategy 2016 CSO Insights Channel Performance Study”
[8] Salesforce, “New Research Uncovers Big Shifts in Customer Expectations and Trust
[9] Gartner, カスタマー・エクスペリエンスサミット2018
[10] PwC, “Experience is everything: Here’s how to get it right
[11] hotjar, “Understanding customer experience
[12] Qualtrics, 2018, “ROI of Customer Experience, 2018
[13] Harvard Business Review, “Learning from Customer Defections
[14] invesp, “Customer Acquisition Vs. Retention Costs – Statistics And Trends
[15] Watermark Consulting, “The Customer Experience ROI Study
[16] Forrester, "Economic Impact of Qualtrics Customer XM"
[17]フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー著、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編 第3版』丸善出版株式会社, 2017年
[18] Forbes, “Why Word of Mouth Marketing Is The Most Important Social Media
[19] A・O・ハーシュマン著、『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』ミネルヴァ書房、2005年
[20] Forbes, "50 Stats Showing The Power Of Personalization"